演劇上等!〜白雪姫編〜
先程までの冷静沈着な狩人の姿は何処へやら上擦った声に屁っ放り腰といった情けない姿に客席の彼方此方からはくすくすと笑う声。これだけでも充分すぎる精神ダメージを負っているのに加えて目前には恋人の姿──それでも尚懸命に与えられた役目を果たすべく構えを解かないミカゲを目にジョーカーは背後のリムを尻目に捉えると。
「向こうに行った」
「な、……ならぬならぬっ、姫は其処だろう!」
「ここにはいない」
「其処に居るのは分かっている……!」
これがまた台本の台詞を馬鹿正直になぞったかのような棒読みっぷりで目も当てられない。
「分かった」
すると。ジョーカーは唐突に立ち上がるなり狼狽えるミカゲにゆっくりと詰め寄った。無論台本には存在しない展開に裏方の演劇部員はざわつくもソラは静めるようにして人差し指を立てて様子を見守るように指示を送る。
「へっ」
その間に。
ジョーカーはミカゲの手首を掴むと。
「ちょちょちょちょ……っ!?」
連れていかれた。
「案内する」
成る程そういうことか。正しい展開としてはいずれ白雪姫は狩人に見つかるもののそのやり取りの中で和解してどうにか逃がしてもらうといったものだが今この状態のミカゲにそこまでは望めないと判断したのだろう自然な形で退場させる選択を取ったのはなかなか賢い判断と言える。
……とはいえ。
「めめっ、目立つのはNGで御座る……っ!」
スポットライトがしっかり追っている罠。
「目立たなければいいのか?」
「あ、あ、ききき、貴様っ、言質を取ろうとしているで御座るな!?」
「どうかな」
イチャイチャしやがって!
『運良く狩人の目から逃れる事に成功した白雪姫ですが城に戻れるはずもなく宛てもないまま森の中を一人彷徨います』
リムはスポットライトを浴びると同時に現実に引き戻されると断りを入れながら観客席を抜け出て通路に立った。一呼吸置いて静かに流れる音楽に合わせてゆっくりと歩を進めながら。
「暗く深い影が闇が進む道を拒み呑み込む……」
辺りを見回しながら、不安げに。
「冷たく寂しい森の奥に見つけたのは──」