演劇上等!〜白雪姫編〜
「助け、……あっ」
見覚えのあるその人物に目を丸くして思わず小さく声を漏らしたが無慈悲にもリムを追っていたスポットライトは上手く隠れられたことを示すように消灯した。遅れて現れたミカゲが小刀を構えながら見回す都度視線を注いだとされるその箇所に点々とスポットライトが落ちるが。
「……この辺りか」
流石は暗殺兼任の忍者。目配せをするその眼光のなんと冷たく鋭いことだろう。まさか本気で殺そうなどとは思っていないだろうがそれでも本職とだけあって纏うオーラに恐怖心さえ覚える。
「おい」
ミカゲは口を開く。
「そこのお前」
双眸に真紅を灯しながら。ゆっくりと振り返れば視線を向けた先にスポットライト。
「娘を」
音楽が止まった。
「っ、ごめんなさい!」
「大丈夫?」
裏方ではどうやら演劇部の女子生徒がコードに引っ掛かってしまった模様。ソラは案じながら抜けたコンセントを差し直すと異様な静けさを感じる客席を舞台袖から覗き込んだ。
「……娘……」
まさか台詞を忘れたはずもない。けれどそこには心底やりづらそうに目を逸らして狼狽えてしまっている様子のミカゲと申し訳なさそうに手を合わせるリムの姿が。そしてこの状況を生み出したのは幸か不幸かリムがその身を隠すべくして選んだ男子生徒。その男子生徒は後ろのリムをちらっと見ると眼鏡を中指で押し上げて答える。
「……見ていない」
まさかのジョーカー。
「あ、……ぅ……あぇ……」
演者として暗殺兼任の忍者として──どちらの意味であれやり遂げるつもりではあったが恋人たるその人を目の前にしたのでは緊張の糸も解けるというか何というか。早い話スイッチが切れて我に返ってしまったわけで。
「……歌、歌!」
ジョーカーの後ろから顔を覗かせたリムが極力声量を抑えながら懸命に訴えかけるもそんなことは分かっているのだ。けれどどうしたことか上手く声が出ない──無理もない話である。
何故なら。
彼は。彼の本来の姿とは。
「かかかっ……隠そうとしたって、むむ、無駄で御座るからな……っ!?」
筋金入りの陰キャなのだから。