演劇上等!〜白雪姫編〜
……結局。
「白雪姫ですぅ……」
あからさまに嫌そうな顔で酷く不貞腐れているがこうして台本通りに認めてくれるまでに数十分程口論が続いたのを省略させていただいたのは無論読者の皆様の為である。
「まったく」
マスターは呆れたように息を吐くと。
「狩人を呼びなさい」
鏡役のクレイジーに背を向けて舞台袖にそう呼びかけながら口角を吊り上げる。
「……私より美しいものなんて認めない」
くつくつと嗤いながら。
「不純物にはどんな天罰が下るのかその身を以て思い知るがいい──」
暗転。──雷の落ちる音、何かの崩れる音。
「きゃああああっ!?」
軽快な音楽と共に叫び声を上げながら舞台袖から飛び出してきたのはリムである。ドレスの裾を掴んで案の定走りにくそうではあるが懸命に逃げる彼女を追いかけて飛び出したのは。
「逃がすかッ!」
本職が暗殺者なんですがそれは。
狩人役がまさかのミカゲ。暗殺兼任の忍者たる彼だからこそ適任ということで選ばれたのかもしれないがそれにしたって適任が過ぎてこのままでは普通に白雪姫の命が助からないのでは。
「狩人の家来に追いかけられ森の奥へと逃げ惑う──お継母様、私が何をしたと言うの!」
ミカゲが速すぎるが故全速力で駆けているのだろうがそれで音楽に合わせて歌いながらよくもまあ息切れを起こさないものである──と、ミカゲの追跡から逃れるべくリムが舞台の脇にあった小階段を駆け降りた。要するに生徒らが舞台を見守る観客席のあるエリアに降りてきたのだ。
「助けて!」
リムは青ざめた顔で辺りを見回した後に適当な生徒を見つけて割り込むようにして飛び込む。遅れてやって来たミカゲは小刀を手にゆっくり周囲に目配せをしながら静かに歌う。
「空よ大地よ──姫を隠すな道を開けよ」
かと思えば目の合った生徒に小刀を向けて。
「娘を見なかったか?」
「し、知りません」
成る程これは面白い演出である──その間にリムは隠れ蓑にした生徒に小さく断りを入れながら観客席から抜け出たが気付いたミカゲが振り返ってまたも追いかけっこが始まる。
「逃げるなッ!」
「死にたくないもの!」
いつの間にやら生徒らも次は自分たちのところに来てくれるのではないかと期待を胸に見守っている。そんな中で次にリムが飛び込んだのは。