演劇上等!〜白雪姫編〜
見兼ねたリムはわざとらしく咳払いすると。
「……お継母様!」
鏡役のクレイジーと手のひらを合わせていたマスターはおもむろに視線を上げた。役に入っているというのもそうだが、彼の場合これまで演劇で演じてきたどの生徒よりも圧というものを感じる。
「おや。白雪姫」
小さく笑みを零して。
「この世界で一番美しい母に、……何か?」
リムは開こうとした口を閉ざし躊躇うように数歩後退りした後、背中を向けて首を横に振る。
「……何でもありません」
『実母を亡くして悲しんでいた白雪姫の為に王様が新しくお迎えしたお妃様は悲しいことに自分の美しさしか考えていませんでした』
舞台を降りて少し離れた場所。スポットライトに照らされたスタンドマイクの前に立った演劇部の副部長たる生徒は脚本を手にゆっくりと語る。
『お妃様の持っていた魔法の鏡は真実を伝える不思議な鏡でした。毎日、毎日飽きもしないで鏡に投げかける質問はひとつだけ』
「鏡よ、鏡。世界で一番、美しいのは……」
舞台が暗転するとくつくつと喉を鳴らしたのち高らかに笑い声が響き渡った。誰もが息を呑むその様子は紛うことなき悪役である。
……本職だが。
『しかし、白雪姫が美しいお姫様に成長すると、魔法の鏡の答えは変わってしまいました』
鈍い音に続いて何かのひび割れる音。
「もう一度。言ってごらん」
スポットライトが舞台上で頭を垂れて表情に暗く影を落としたマスターを照らし出す。
「この世界で一番、美しいのは」
クレイジーは顔を上げてゆっくりと口を開く。
「お妃様です」
「台本の通りにやれ」
「やだ! 兄さん以外認めたくない!」
「物語が進まないだろう!」
……だと思った。