演劇上等!〜白雪姫編〜
次の日。
「ええーっ!」
声を上げたのはピチカである。
「なんでなんでっ!?」
「う、うーん」
「どうしたのよ」
放課後、廊下の突き当たり。たまたま通りがかったリムは詰め寄るピチカを相手に困り果ててしまっている様子のソラを見つけて。気まぐれに助け舟を出すつもりで歩み寄り声を掛ければ。
「聞いてよっ、リムぅ! 昨日の演劇の様子を撮った映像のデータ……全部校長先生と教頭先生に回収されて破棄されちゃったんだって……」
ピチカはがっくりと肩を落としながらぼやく。
「せっかくラストの謎のローブの男子生徒さんの正体を暴こうと思ったのにぃ……」
まあ、彼女の気持ちも分からなくもないが確かに演劇の様子を収めたDVDが不当な形で売買されないとも限らない。良くも悪くもそういう時代なのだからどんなに素晴らしい内容でも警戒するに越したことはないだろう。
「ラストの……」
リムは小さく呟いた。
残念なことに眠っていた間の記憶は当たり前のように抜け落ちてしまっていたのだ。まさかあの毒林檎にそんな細工をされていたものだとは思いもしなかったがそれはそれとして自分に接吻をして呪いを解いたのは一体誰なのか──
「おい」
振り返った先に居たのはネロだった。
「何かあったのか?」
「それが──」
「はいはいもういいから」
リムは苦笑混じりに憤るピチカを宥める。
「……今日部活は?」
「お休みよ」
「ふーん。駅前にクレープ屋あっけど」
「あらいいわね」
ネロはふっと笑みを零して、
「奢ってやろうか」
「どうしたのよ急に」
「別に?」
「じゃあ一番高いの頼んじゃおっと」
「おー頼め頼め」
……二人の背中が遠ざかっていく。
「リムってば」
ピチカは不服そうに唇を尖らせながら。
「キスしてくれた相手が運命の王子様だったかもしれないのに探さないなんて──」
「探す必要はないと思う」
「わぁっ!?」
いつからそこにいたのやらハルは声を上げて驚くピチカを無視して淡々と。
「今、一番近くに居るだろうから」
白雪姫を眠りから覚ました王子様は。
「それって──」
「ソラ。今回の演劇、予算オーバーしてる」
「大丈夫だと思ったんだけどなぁ……」
「もぉっ! 無視しないでよぉ!」
end.
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