演劇上等!〜白雪姫編〜
──靴音。
「、!」
早い段階で差した影にハルは顔を上げた。そこに居たのは舞台用の衣装ではない制服姿にフード付きの黒いローブを着込んだ一人の生徒──身長や体格から察するに男だろうか。騒いでいた観客席の生徒や父兄らも事態に気付いたのか小さく声を上げて注目する。ハルは小首を傾げて見上げた。
「君は」
問い掛ける声を遮るようにローブを翻してその男子生徒はリムの傍らに片膝を付く。そうして幸か不幸かローブが妨げになっている内に。
「……!」
それは。
柔らかくて、優しくて。
「……う、ん」
小さく身じろぎ瞼を疼かせ──薄ら開く。
「白雪姫が」
小人役の生徒が口々に呟いた。
「目を……」
「覚ました……」
と、いうことは。
『何ということでしょう!』
歓声の中、副部長の生徒は感極まった様子で身を乗り出す勢いで語る。
『白雪姫が深い眠りから目を覚ましたのです!』
リムは寝ぼけ眼でむくりと上体を起こす。
『呪いを解いたのは……あ、あれっ?』
副部長の生徒の視線を受けてハルは静かに首を横に振る。物語のクライマックス基大盛況の中謎の男子生徒は姿を消してしまっていたのだ。
『お、王子様……』
「はいっ!」
それまで呆気に取られていたシュルクは慌てて舞台に上がろうとしたが踵を返すと同じくその場に立ち尽くしていたマークの手を掴んで。
「えっ」
「実は王子は二人いたんだ!」
『……じゃあ、そういうことで!』
きゃあきゃあと黄色い声が飛び交う中。
「えっと」
リムは怪訝そうに舞台に上がってきたシュルクの手を取って棺から出る。
「……大丈夫?」
「え、ええ」
『こうして目を覚ました白雪姫は』
……内容が頭に入ってこない。
『運命の王子様と──』