演劇上等!〜白雪姫編〜
直後軽快な音楽が流れ始めれば演技をせざるを得ない。歌に合わせて林檎を差し出したり押し返したりと愉快な演技に観客も手拍子をする中で舞台裏の厚みのあるカーテンを捲ったのは。
「……やれやれ」
小さく息を吐き出したマスターの胸に寄り添うのはクレイジーだった。何故か頬をほんのり朱色に染めているのが気掛かりではあるが……
「兄さんったら、あんな……大胆、」
「厚手の衣装で隠れたから汗ばんだだけだろう」
ちなみに、この小説のお話は全年齢向けである。
読者の皆様にはご安心いただきたい。
「ちっ」
クレイジーは舌を打つ。
「このまま茶番に付き合っていれば演技とはいえ話の流れで醜態を晒す羽目になるからな」
「僕、兄さんが灼けた鉄の靴穿かされて声を上げながら舞踏するとこ見たかったなー」
「言うほど見たいか?」
「……全然」
音楽が止まる。
「ゔゔっ!」
『お婆さんに化けたお妃様は、白雪姫を騙して毒林檎を食べさせることに成功しました』
改めて覗いてみれば押し負けて林檎を一齧りしたリムが倒れる場面だった。これがまた派手に音を立てて床に横たわるものだから厭に役に入り切っているなと感心するでもなく大丈夫なのか痛くないのか等と随所で不安や心配の声が──とはいえこれだって演技なのだから役者にしてみればしてやったりといったところか。
「しーっしっしっし! 白雪姫は死んだのじゃ! これで儂が世界で一番美しいのじゃ!」
それにしても、代役の代役とはこれ如何に。
「さて──あれを食べてしまったからには最後の瞬間まで責任を持って見守らないとな」
途中退出まで考えていたクレイジーはマスターの発言にきょとんとして見つめる。
「あれは正真正銘、創造神特製の毒林檎」
知ってか知らずか追い討ちのように。
「三十分以内に接吻を受けなければ永遠に眠りにつくことになる」
えっ?
「白雪姫の物語における
マスターは口元に深い笑みを刻み付けながら。
「……楽しみだな?」