演劇上等!〜白雪姫編〜
「白雪姫っ!?」
声を上げたのはピチカだった。
「し、しぃー!」
慌てて人差し指を立てたのはソラである。
読者の皆様はお察しのことだろうが週末に発表する演劇の部員が急な帰省や諸々の事情で足りなくなってしまったのだ。今や演劇部の部長を勤めている彼がやむを得ず代理役をお願いするべく目を付けた人の元へ訪れていたというのがここまでの流れ。
「お姫様の役なんてすてきっ!」
ピチカはうっとりと目を細めて手を合わせる。
「やったじゃん!」
そうして目を向けたのは。
「……リム!」
え?
「白雪姫の役だなんて」
リムは困ったように眉を寄せる。
「うぅん……私じゃなくて本物のお姫様にお願いした方がいいんじゃないかしら」
「ルキナもカンナも喉の調子が悪くて」
それというのも今度の演劇は歌って踊る所謂ミュージカルだというのだ。この試み自体は面白いし部長であるソラの提案しそうなことだとは思うがいちいち代理役を探さずとも大人しく日を改めた方がいい気がするのは気のせいだろうか。
「僕、リムのお姫様、見てみたい!」
「気持ちは嬉しいけれど……」
本人も乗り気じゃないことだし。
「そこをなんとか!」
手を合わせるソラに押し負かされて。
「……やるだけやってみるわ」
心優しい彼女だからこそ折れたのは予定調和。
それよりも──白雪姫におけるクライマックスの流れをあいつは知っているんだろうか。
……知らないだろうな。
「ありがとうっ!」
首の皮一枚繋がったとばかりに感謝するソラと苦笑いを浮かべるリム。そして誰よりも嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねるピチカ。その様子を密かに見守っていた影は眉を寄せると緩く拳を握り音を立てないようにその場を後にした。……
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