悪い子のススメ
マークとハルは顔を見合わせた。
まあそもそも彼は対戦の結果に固執して意地になるタイプでもないし何にせよ気軽に楽しむと発言している以上は見守る他ないか──なんて考えながら戦いの火蓋が切られた画面の中をぼんやりと眺めて数秒マークは異変に気付いた。
「あ」
何を言うまでもなく。
「ちょっ……」
圧倒的な力量差で──勝ってしまったのだ。
「……す」
ルキナが何か言いかけたのも束の間。
「ふざけんなッ!」
筐体が大きく揺れたのはどうやら向かいの青年が酷く蹴り上げたのが原因のようだった。確認するまでもなくその主はあからさまに苛立った様子でその筐体の後ろから出てくるなり睨み付ける。
「今プレイしてたのはどいつだ?」
マークは守るようにして素早くルキナの前に腕を差し出し青年を見遣る。
「俺だが」
ロックマンは立ち上がらないまま告げた。
「ふざけやがって」
「おやおや」
悪びれた様子もなくにっこりと。
「老若男女問わず様々なプレイヤーが混在するのがこのゲームの特徴だ。ならば例えば君のように初心者だけに的を絞ってその心を折ることを生き甲斐とする輩を狩ろうという連中がいたところで──何らおかしな話ではないだろう?」
そういうことか。
マーク含む三人はようやく合点がいった。
どうやらロックマンはプレイ中、或いはマッチングした時点で対戦相手の本質を見極め制裁を下したようだった。それは別段構わないのだとしてもこの場で問題を起こすのは。
「こいつ!」
恐らく焚き付けたつもりもなかったのだろうが案の定青年は苛立ちを抑え切れないままロックマンに手を伸ばそうとした周囲の客はこの騒動に気付いてはいるのだろうが見て見ぬふりばかり──これは早急に店員を呼んで対処してもらわねばとマークが辺りに視線を走らせた、その時である。