御人好しレッドの不幸日和



……そういえば。

「リオン」

レッドはもう一度振り返って、

「ユウから本を預からなかったかな」

リオンの犬耳がぴこんと跳ねた。

「あれなら元の持ち主にしっかりと返しておいたぞ!」

そうなんだー、と返しながらさりげなく自身の机の中をまさぐる。しかしそれらしい厚さの手応えは無い。だが褒めろと言わんばかりの視線と忙しくばたつく尻尾を見ていれば分かるのだ。リオンは確かに、目的を成し遂げたのだと。

誤りがないと自信を張るのなら、本は一体何処に――


「あっ」


小さく声を洩らしたのは。

「……あったみたい」

引きつり顔で、昼休み中探し回った本を。

あろうことか自身の机の中から取り出してしまった……ローナ。

「ん? 違ったのか?」

リオンはきょとんとしている。

「……お前」

ネロは呆れて机に頬杖を付きながら、

「その本、枕にして涎垂らしながら寝てたろ」


空気がひんやりと温度を、色を変えて。


「そうだったんだ」

ローナがぎくりと肩を跳ねて辺りを見回すも、ネロもシフォンも目を逸らす。

「……うん」

レッド、にっこりと笑って。


「覚悟は出来てるよね?」


――例えば。ふとした瞬間に弾けるものもあって。

「いやぁちょっとレッドさん?」

その対象が如何に大事な人であったとして、

「……ん?」

止められなくなる時が来るんだ。

「拒否権があるなんて思わない方がいいよ」


その後、ローナがレッドにみっちり搾られたのは言うまでもない。



end.
 
 
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