うちの弟がクソガキすぎる
……へっ、
「変態じゃん……ガチキモ……」
言いたいことはパックマンが代弁してくれた。
「屈辱を受けているのは此方の方なんだが」
「……何故?」
マスターは首を傾げる。
「先刻の交戦のことを指しているのならお前たちの目に希望の光が潰えていないことが何よりもの証拠だろう。次また相見えた時の為に心身共に養い頭を働かせて備えている現状を一括りに敗北等とは口が裂けても言えないだろうに」
うーん!
「ちなみにマスター様は素で仰ってます」
「なんで敵に励まされなきゃいけないんだよ」
キラキラとしたエフェクトをバックににこやかに手のひらで指し示しながら蛇足するダークファルコにパックマンは呆れ顔。
「ただ破壊神を敗北させることが目的なら自ら達成された方が早いのでは?」
「そうだな。俺が弟に負けるはずがない」
マスターは足を組み直しながら。
「だからこそ意味がない。それを弟自身重々に理解している以上得られるものもたかが知れている」
大した自信である。
「お前たちも知っての通り弟は人一倍プライドが高く、かと言ってそれを投げ打つほど隙や弱点がある訳でもない。……完璧なんだ。だからこそ」
マスターは組んでいた脚を下ろすと。
「そんな弟が未だかつて見ない屈辱や絶望を人前で味わわせられながら。敗北に表情を歪ませる姿は」
口元に薄笑みを浮かべて。
頬を仄かに紅潮させながら恍惚と。
「想像を絶する程に……可愛いのだろうな……」
うわぁ……
「お前らこんなのに仕えてんの?」
「まぁな」
スピカは諦めたかのような遠い目をしている。
「可哀想……」
「やめてやれ。パックマン」
言いたいことは以下略。
「まぁその気持ちは分からないでもないが」
「隊長?」
「難易度が高すぎやしないか」
ロックマンは発言に対し抜け目なく突っ込むパックマンを差し置いて事実を口にする。
「……そうだな」
マスターは再び足を組んでからほくそ笑む。
「だが"不可能"でもない」
室内に緊張が走った。
「お前の頭脳は評価しているんだ。もし依頼を達成出来たなら相応の対価を支払ってやろう」
くく、と喉を鳴らして笑った後にマスターは自身の胸に手を置きながら。
「お前の望むものを何でも一つ創造してやる」
な、何でも──!?
「悪い話じゃないだろう?」
相手はこの世界の創世主たる創造神──ありとあらゆるものを自在に生み出すことが出来るだけでなくこの世界の何処にも存在しないものだって。愕然とするパックマンがはたと視線を向けたタイミングで隊長たるその男はごくりと息を呑んだ。
「……引き受けよう」
悪魔の契約か。それとも。
「いい返事だ」
マスターはようやく席を立つ。
「明日以降、此方のタイミングで伺う」
「はぁ!? 日取りくらいはっきりしろよ!」
「それがお前の番とは残念だな。事細かに決めるだけ勘付かれるかもしれないリスクを伴うことくらい少し考えれば分かるだろうに」
パックマンはぐぬぬと口を噤んだ。マスターは満足げに小さく笑みを零して右手の指を鳴らす。
「期待しているよ」
現れた空間の歪みに足を踏み入れながら。
「正義のヒーロー殿?……」