キーメクスの審判
彼女の苦悩が。悲痛なその訴えが冷たく凍り付いた正義の心を熱で溶かし突き動かせたならどれほど良かったことだろう。希望に溢れた展開を夢に描いたところで現実は非情だった。
「っ!」
金色の閃光──ルフレは小さく目を開く。
「いい加減にしなさいッ!」
次の一手を止めたのはルルトだった。両腕に電気を帯びながら振り下ろされたサンダーソードの刃を両手のひらで合わせるように挟んで受け止めながら。彼女はくっと眉を寄せる。
「皆……分かっているのよ!」
呼吸も。体温も。
流れる血も何もかも。
「分かってて戦っているの!」
鋭く睨み付けて後退を図るルフレに。
「それがッ!」
ルルトは力強く踏み込みながら。
「私たち皆で選んだ正義じゃないッ!」
懐に潜り込んだルルトが左手の甲に右手を重ねて胸部に翳してきたのを目にルフレは早口で何かを唱えた。刹那、二人の間で青白い閃光の飛び交う小規模な爆発が起こりその距離が強制的に離される。舞い上がった土煙の中を背中から突き出たルフレは直後差した影を見上げてもう一度早口で何かを唱えると黄緑色の風を纏いながら回避に徹して。
「ルフレ……!」
ソラのキーブレードによる薙ぎ払い──そしてクラウドのバスターソードによる振り下ろしが間隔を空けずに襲いかかってくる。その攻撃の一つ一つを丁寧に回避した後でルフレは地面を蹴って大きく飛び退くとサンダーソードを力強く差し向けた。
「お願いです……もうこんなことは──!」
ルキナの訴えを遮るように。
「話が通じないと思っているのはこっちも同じ──だったらもう私は。私たちは何も言わない」
地面の僅かな振動に逸早く気付いたのはそれまで動向を見守っていたマークだった。察知したと知るや否やルフレはにやりと口角を持ち上げる。
「チェックメイトよ」
……次の瞬間。
「、!」
地面が酷く揺れ始め──面々を囲うようにして地面の表面を紫色の光が駆け抜けた。そのまま大きく丸く円を描いたかと思うと光は天に向かって突き抜けて。その上で魔物が口を開くかのように巨大な一つ目を模した光が円の中で開眼する。
「ルフレ──!」
「実の妹の見分けも付かないなら」
マークは目を開く。
「兄、辞めた方がいいんじゃないっスか?」
振り向いたその人の双眸が紅く灯る。
「るぅちゃん」
魔法陣の外側。いつまでもしつこく居座っていた黒煙が不意に一陣の風によって払われれば全貌が明らかとなる。魔導書を構えた一人の少女は空いた手を突き出して向かいの戦士らを睨み付けて叫ぶ。
「ゲーティア!」