キーメクスの審判
マークは目を細めて笑うとルフレの頭の上にぽんと優しく手のひらを置いた。
「……何年見てきたと思っているんだい」
物心ついた時から。
寂しくても。苦しくても。
「最初は驚いたけどね」
ルフレはそろそろと顔を上げる。
「君があんなに楽しそうに笑うから」
霞がかかったように。
上手く顔を見ることが出来なかった。
そんな彼女の表情の変化や仕草の癖を細かく見抜いているのであろうマークは二度三度繰り返し撫でた後で手を離して真剣な面持ちで向き合う。
「……でも事態は僕たちの想像以上に深刻な状況に陥っている。X部隊の話は聞いたかい?」
ルフレはまるで叱られた子どものように俯きがちに「ええ」と小さく応えた。
「僕は、ルフレのことは守ってやれるけど君たちの関係までは守ってあげられない」
ああ。何もかも、この人にはばれている。
見透かされてしまっている──
分かっていた。ダークシャドウの彼に抱く、形容し難いこの感情の正体が何なのか。
それだって、……私が正義というだけで。
彼が悪というだけで。
我が儘なのはとっくのとうに分かっている。人によってはどんな酷い罵詈雑言を浴びせられたものか分からない。それなのに──この人は自前の優しさで許そうとしている。
そんな彼の優しさに。
甘えきっている自分がいる。
「分かってくれるかい」
憂いを帯びた優しい目で諭すように言うこの人を誰がどうして裏切れるというのだろう──ルフレは自身の視界が歪んで滲むのを覚えて奥歯を噛み締めながら再び頭を垂れた。マークは、そんな彼女の罪悪感も何も包み込むようにそっと優しく抱き寄せる。
「……ルフレ」