気付いて!レッドさん!
……その後も。
「レッド」
強気に壁ドンを仕掛けてみたり。偶然を装って押し倒してみたり大胆に押し付けてみたりとエトセトラエトセトラ。もちろんおふざけなどではない本気の声色で本気の顔付きで実践しているのだ。
……それだというのに。
「どうしたの?」
この天然タラシときたら!
「なんで気付いてくれないのさぁ!」
所変わってここは食堂。ぐるりと時計の針は回っていつの間にやら夕飯時である。
「あんなに分かりやすいのにっ!」
「あら。私はこれはこれで楽しいと思うけれど」
同じテーブルを囲んで座っていたのはアルフェイン兄妹だった。
話の中心人物であるレッドはというと三人より早めに夕食を済ませた後急ぎ足で図書室へ直行。確かに食事中に本を見るなと注意を促したが。反抗の意思を示すかのように今度は食事を秒で掻き込んでその上咽せながら飛び出していくのだから何というか。子どもじゃないんだから。
「むっきゃー!」
「……これだからな」
いくら自分たちが結果に動じなかろうと肝心の妹がこの調子である、とばかりにネロが親指でローナを指し示せばシフォンは呆れたように溜め息。
「これじゃ勝負にならないじゃないかあっ!」
"レッドを意識させた人が結婚する"──なぁんて馬鹿げているかもしれないがこの三人。本気も本気なのだ。突拍子もない提案をしたのは無論末妹だが初めは冗談だの馬鹿げているだのと流そうとした兄と姉もここで食い下がるのならこの勝負は頂いたと煽られてしまったのでは。
言い出しっぺが引き下がるなよ!
結果は見えているけど付き合ってあげるわ。
恨みっこなしだからねっ!
──今度という今度は本気だから!
というのが。
昨日レッドが部屋に戻るまでのやり取り。
「僕ってそんなに魅力ないのかなー」
ローナは終始不満げな顔。
「お前はともかくとしてもシフォンが相手にされてないのにそれはないだろ」
「ふぎゅぅっ、説得力……!」
あーあ。テーブルに伏せてしまった。
「勝負はどうするの?」
「完敗どころか不戦敗だな──」
「……もしかしてもしかするとなんだけど」
ローナは伏せたままの体勢で。
「レッド氏……いっそのこと、僕たちが何をしても気付かない説ある……?」
ネロとシフォンは顔を見合わせる。
「じゃあさっ! じゃあさっ!」
ぱっと顔を上げたローナがこそこそと。
ネロもシフォンもその内容を耳にした途端賛同できないとばかりに顔を歪ませたが。
「これでガチなら諦めるからあっ!」
お願いお願いと手を合わせられたのでは。
「……仕方ないわね」
「怒られてもしらねーからな……」