気付いて!レッドさん!
風呂椅子から転げ落ちてしまうところだった。
「、なにー?」
「何でもないっ!」
叫び声に気付いたディディーが不思議そうに訊ねるのを此方に気付くな注目するなとばかりにレッドは声を上げて突っぱねた。もくもくと都合よく立ち込めてくれている湯気のお陰で子ども達四人は事態に気付かなかったらしく安堵の息。
……それよりも。
「な、に、し、て、る、の……?」
レッドは声を震わせながら両肩を掴んだ。
──全裸にタオル一枚を巻いただけのあられもない格好をしたローナの両肩を。
「えー?」
それだというのに本人はきょとんと。
「……花嫁修行?」
いやいやいやいや!
突拍子もないことを思い付いては誰にも相談せず時として周囲を巻き込みながら実行に移す気まぐれトラブルメーカーだとは思っていたけどまさかここまでのことを仕出かすなんて! 自分が女の子であるという自覚が薄いが故に招いた事態だろうが無防備な格好で男湯に参入など流石に擁護できない。
「い……今なら皆も気付いてないから……!」
「何でもできる……って、コト!?」
「カービィみたいなこと言わないで!」
さて今日は何かある度に誰かを例に挙げているような気がする……その都度適した例がぱっと思いつくというのも考え物だが。
「カービィじゃなくてちーちゃんだよぉー」
「どっちでもいいよ!」
これでも叫び散らしたいところを精一杯抑え込んでいるのである。レッドは慌てるあまり足を滑らせてしまいそうになりながらもローナの手を引いて一緒に立ち上がると体をくるっと反転させて背中に手を置き──ぐいぐいと出入り口へ。
「ちょっとぉ!」
ローナは背中を押されながら不満げに。
「他に言うことがあるんじゃないのかいっ!」
「説教が欲しいなら後でいくらでも」
「そーじゃなくてっ!」
言うや否や振り返ると。
レッドの手首を手荒く掴んで、そのまま──
ふにゅり、と。
「……僕だって」
頬を紅潮させて唇を尖らせながら。
「女の子、なんですけど……?」
……………………。
「ローナ」
真剣な声色にびくりと。
「うん」
「レジギガスの専用技って知ってる?」
にぎりつぶす。
「……あい」
レッドはにっこりといつもの笑顔。
「二度目はないからね」
「ぁぃ……」
ぱたん。
「……あら」
様子を見にきたらしいシフォン。
「ずがどーん……」
無事に大浴場から追い出され、脱衣場で一人元々着ていた服に着替えながら酷く落ち込んだ様子であるローナを目に察して盛大な溜め息。
「だから言ったじゃないの」
呆れたように。
「色仕掛けが通用する相手じゃないわよ、って」