気付いて!レッドさん!



大浴場──共有の設備ではあるがトラブル回避の観点から奇数の時間と偶数の時間とで男女使用できる時間が異なっており、そのルールも基本的には使用頻度の多い夕方以降に適用される。

「おまたせっ」

脱衣場から出てきたのはピチカだった。

「ごめんね。僕だけ先に使わせてもらって」
「レディーファーストだからな」

腰に手を当てながらディディーはしたり顔。

「じゃ、俺たちもさっさと入ろーぜ」
「上がったら俺とリュカの部屋だからな!」

トゥーンやネスが口々に言う中で。

「ご、ごめんね……レッド」

呼んだその人の袖を引いてリュカが見上げる。

「巻き込んじゃって……」
「大丈夫だよ」

視線を受けたその人は安心させるように優しく笑いかけて返す。

「ほら。お風呂に入ろっか」


近年多発しているゲリラ豪雨──昨日も夕方頃に大粒の雨が酷い勢いで地面を叩き付けて我が自慢の中庭はお陰様の泥濘。早朝の稽古を日課としている剣士達でさえ今日この日は見送ったというのに子ども達はお構いなしの泥遊び。

誰が洗濯すると思ってるんですか!……なぁんて誰かさんの怒号のお陰で強制終了となったもののその少し手前で不運にも泥団子合戦の餌食となったのがレッドである。オリマーやシフォンが管理してくれている植物の様子を何の気なしに見に行こうとしただけなのにツイてないったらありゃしない。


「、ぅわっぷ」

不思議と構いたくなるのが子どもである。

「ごめんっ、目に入った?」

風呂椅子に座ったリュカの後ろに回って両膝を付きシャンプーで髪を優しく洗いながらレッドが横から覗き込むとリュカは固く瞼を瞑りながらふるふると首を横に振って応えた。見え透いた強がりに思わず小さく笑みを零してしまいながら続けざまシャワーを使って丁寧に泡を洗い流していく。

「よし。お湯に浸かっておいで」

レッドが言うとリュカは頷いてひと足先に浴槽で他に誰も居ないのをいいことに水飛沫を上げて泳いだり水鉄砲を撃ち合ったりと如何にも子どもらしい遊びをしている三人の元へ駆けていった。走ったら危ないよ、なんて言おうとしたその矢先に足を滑らせかけたので思わず息を飲んだが何とか踏み堪えたのを見て安堵の息をつく。本当、子どもって何処で何するにしても危なっかしくて目が離せないなあ……


「お背中流しましょーか?」


なんて声が後ろから。

「あ、うん。ありがとう──」

答えたところではたと気付く。


今、ここには自分含めて五人しか居なかったはず。


「はいはーい!」

その相手は此方の気も知らずご機嫌な声色で。

「ローナちゃんにお任──」
「うわああぁあああっ!?」
 
 
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