気付いて!レッドさん!



ふ、と小さく噴き出す声にレッドはいい加減に我に返ったようだった。ぱっと顔を上げてみれば案の定向かいの席のネロがくつくつと笑っている。

「と……とにかく」

レッドは誤魔化すように咳払い。

「年内にはパルデア地方に行ってみたいな」
「ん。りょーかい」

そんな風に頬杖をつきながら応える彼は──いや、彼らは当然今度も付いてきてくれるのだろう。頼まなくたってこの星の裏側にまで付いてきてくれそうなのが彼らだ。それだってパートナーだからこそなのかもしれないがお陰様で旅先で危険な目に遭ったことは一度もない。


けれど。

彼らにだって未来がある。


「いつもありがとう」

余裕綽々としていたっていつかは彼らにもちゃんとした想い人や配偶者というものが出来て自分が選択肢から外れたり優先順位が繰り下げられる日が来るのだ。まさか、それを恨んだりはしない。その日がいつだか分からないが寂しく思うより今この瞬間に感謝して味わおうじゃないか。

「、ネロ?」

急にそんな風に不意打ちで感謝を述べたのだ。突っ込みが飛んでくるであろうことは明白だったのに。

「いつまでも感謝してろよ」

これまた思ってもみなかった言葉だった。それに加えていつの間にか伸ばされた手が頬に優しく触れてレッドは小さく肩を跳ねる。


「こっちはずっと一緒にいるつもりだからな」


……そうして彼が指の腹で掬ったのはどうやらマヨネーズだったようで。読書という名の余所見をしながらサンドイッチを食べていたものだから知らぬ間に付けてしまっていたらしく。

「ん」

それを何の躊躇もなしに。


おもむろに口に運んで──ぺろりと。


「言ってくれたらよかったのに」

長男であるが故の性というか癖のようなものなのかもしれないがこれではまるで子ども扱いされているようで。不服そうな声音でレッドがぼやくとネロは小さく笑って頬杖を付く。

「教えたところで塗り広げるだけだろ」
「ローナじゃないんだから」
「お。言ったな?」
「本人も言われ慣れてるよ」

ご馳走様、と席を立つ。

「本返してくるね」
「おー」


遠ざかるレッドの背中を見送った後で。

ネロは深く深く息を吐き出して──項垂れる。


「……なぁ」

通りすがりのドンキーに声を掛ける。

「うおぉびっくりした。なんや?」
「もし俺がお前相手に面と向かって"ずっと一緒にいるつもりだ"とか言い出したら……どう思う?」

ドンキーは若干引き気味に顔を顰めながら。


「なんやそれ。プロポーズ?」


それを聞いたネロは更に溜め息。

「だよなぁ……普通は、そう思うよなぁ……」

そうして遂にはテーブルに伏せてしまいながら何故やら酷く落ち込んだ様子のネロに、ドンキーは終始訝しそうにしながら。

「……なんやねん」
 
 
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