気付いて!レッドさん!



食堂。洗面所で洗顔と歯磨きを終えたレッドは食事を摂るべくこの場所を訪れていた。時間帯的に見ても朝にしては早過ぎず、かといって遅過ぎないお陰でなかなかに賑わっている。朝食は自分にとっては定番のハムとアボカドのサンドイッチとハイラル地方にある牧場から仕入れた酪農ミルク。それぞれを乗せたトレーを受け取り口から受け取って振り返ったと同時に朝から元気よく駆け回る子ども達とぶつかりそうになってしまい即座に踏みとどまれば。

これまた不運にも体がぐらりと。

「っぶね……」

かと思えば転倒は免れた。たまたま通りかかったのやら下から掬い上げるように腕を回して支えたその人が漏らした声にレッドはそろそろと顔を上げる。その人は「おぉーい」と子ども達に注意を促すべく声を上げた後でレッドと目と目が合うと安堵の入り混じった溜め息。

「……気ぃつけろよ」


行儀の悪いことだとは自覚しているのだが。

「おい」

向かいの席のその人が突っ込んだ。

「飯食う時くらい本閉じろよ」


ですよねー……


「何読んでんだよ」

そうして注意を促しながらも末妹に言うように酷く叱り付けたりしないのは無論その相手が自身のパートナー且つトレーナーだからである。

「パルデア図鑑」
「……はぁ?」

先程助けてくれたのはアルフェイン兄妹の長男たるネロだった。どうやら既に朝食は済ませているらしい彼がどうしてわざわざ向かいの席に座って構ってくるのか。これでは鬱陶しくて落ち着いて食事が出来ないのではないかと疑問視されそうなものだが、レッドにとっては日常茶飯事も同然なわけで。

「連休が取れたらパルデア地方に行きたくて」
「いやそこは普通、旅行情報誌とかだろ」
「えっ」

レッドは目をぱちくりとさせた後で。

「あ、……あはは……」

向かいのネロも知ってたと言わんばかりのじっとりとした視線を浴びせている。

「花より団子みてぇだな」
「いやそれは違うんじゃないかな」

まるで人格がすり替わったように即座にきっぱりと返した後でレッドは人差し指を立てながら。

「実はポケモンは食べ物を模した姿より花を模した姿の方が多いんだ。ラフレシアとかフラージェスとか──これは彼らが自然界で脅威となり得る種から身を隠す為だと言われているね」

それこそ水を得た魚のように。

「加えて面白いことに食べ物を模した姿のポケモンは比較的最近になってから発見されたケースが多いんだよ! 諸説あるけど最も有力なのはポケモンがトレーナー基人間と共存するようになったからだと言われていて──」
 
 
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