気付いて!レッドさん!
次の日の朝。
「ん……」
小さく身じろぎ呻き声を洩らして。その内にゆっくりと意識を夢から現実へと手繰り寄せられ、やがて──目を覚ます。瞼は依然として重くそれでいて頭もなかなか覚醒してくれないのはやはり昨日夜更かしをしてしまったせいだろうか。今日は特に何か予定があったわけでもないしたまには寝直してしまうというのも悪くはないような……
「……?」
それが掛け布団にしては何だか重量感があるような気がして。レッドはぼやけた視界がクリアになっていくのと同時に状況を把握する。
「目が覚めたかしら」
そこに居たのは。
「お寝坊さん」
黒地のレースの大人びた下着を上下に身に付けた霰もない格好をしたシフォンが──
「……ふふ」
そんな彼女が腰に跨っているのである。
「シフォン」
「あら。何かしら」
思春期真っ盛りの好青年ともなればここで飛び付かない選択肢はないことだろう。謂わば据え膳というものである。……それだというのに。
「起きるから退いてもらっていいかな?」
これである。
「……嫌だと言ったら?」
「困るよ。起きれないから」
「起きなければいいじゃない」
「それでいつもローナを叱ってるでしょ」
正論を返されてしまったのでは退く他ない。
「……欲がないのね」
シフォンは溜め息を吐いて渋々と。
「ないこともないよ」
「例えば?」
のそのそとベッドの縁まで移動して脚を下ろしたところで言葉を投げかけられればぴくりと肩を震わせ反応を示した後水を得た魚かのように目をきらきらと輝かせながら振り返って。
「パルデア地方に行きたい!」
これである(二回目)。
「ブルーベリー学園にも行ってみたいな……!」
ポケモンがどうとかテラスタルがどうとか。指折り数えた後に両手を組んでキラキラとしたエフェクトを周囲に散らしながらまだ見ぬ冒険に想いを馳せるレッドにシフォンは溜め息。
「……通常運転、ね」