気付いて!レッドさん!



結局。頭頂部に大きなたん瘤をいただいたのは言い出しっぺのローナだけで。

「こんな遅くによそ様に迷惑かけないの」
「そこじゃねーだろ」

これ以上図書室に居座る理由もないので四人は自分たちの部屋に戻るべく廊下を歩いていた。しかしながら確かにレッドの言い分も一理あるがそれはともかくとしても相手は敵のダークシャドウだろうに。確かに近年敵なのか味方なのかあやふやな関係ではあるがそこではなく。

「……だもん」

ローナは小さく呟いて足を止める。


「レッドが悪いんだもん!」


これがまたなかなかの声量なので先頭を歩いていたレッドもぎょっとして立ち止まった。

「僕たちっ! こぉぉんなにレッドのことが大好きなのに……レッドがちっとも気付かないから!」
「えっ? えっ?」

ローナはずいずいと詰め寄る。

「結婚したいくらい好きなのにっ!」
「う、うん?」
「性別が反転する魔法のお薬を呑ませて赤ちゃん作って子孫繁栄させて生涯を共にしたいくらい大大大大だぁーい好きなのにっ!」
「やめんか」

ネロの手刀が頭頂部の瘤を殴打。

「ぜにゃがめええっ!?」
「あ、ありがとう……?」
「気付いてないわね」
「お前もお前で危機感をだな──」

するとレッドは目を丸くしながら。

「? 気付いてるよ?」


えっ?


「お前……意味分かって言ってんのか?」
「自分で言うのは恥ずかしいんだけど……えっと、三人が俺のことを好きだって話だよね?」

レッドはあっけらかんとした様子で。

「気付かないも何もいつものことじゃないの?」


ん?


「ちょいタンマ」

ネロは片手を挙げて断るとシフォンとローナの肩を抱きながら通路端に寄って忍び声。

「……レッドのことなんだけどよ」
「そういうことでしょうね」
「なにさなにさ」
「いーから聞けバカ」

咳払い。

「俺たちの好意に気付いてないとかじゃなくて」

眉を寄せながら。

「レッドの中でデフォルト化しちまってるってだけなんじゃねーか……?」


ち、

ちょっと待てええぇえっ!?


でも、確かに。

どうりで反応が薄いわけだ。レッドの中でかの兄妹の全力のラブアタックはもはや日常茶飯事も同然で。大したことではないと認識されていたばかりに反応が思い描いたものより薄く見事すれ違っていたというわけである。


「僕たちが愛しすぎたせいってことぉ……!?」

平たく言ってしまえばそういうことである。

「こんの幸せ者めっ!」
「えっ?」
「およしなさいな」
「だってぇ!」
「ありゃ暫くは無理だろうな」


こうしてかの兄妹の不毛な争いは。

ある種の自滅により幕を下ろしたのである──


「むむむむむ……こうなったら次は押して駄目なら引いてみる作戦で!」
「おー。言い出しっぺがやれよ?」
「私は見てるから」
「なんでさぁっ裏切り者ぉっ!」
「? さっきから何の話をして──」
「何でもないっ!」



end.
 
 
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