気付いて!レッドさん!




夜。エックス邸。

「ふわぁ……」

遅い時間ということで日中より控えめな明るさの灯りの灯された図書室の中で眠そうに欠伸を洩らしたのはナナである。それまで本を読んでいたレッドはふと顔を上げて壁に飾られた掛け時計を見上げる。──風呂上がりの隙間時間にそれとなくこの場所に立ち寄って読書をしていたが思っていたよりも時間が経ってしまった。この分だとローナ達はもう先に眠ってしまっているかもしれないな……

「そろそろ部屋に戻る?」
「ぅうん……」

ポポがナナに声を掛けている間にレッドはすっくと立ち上がり本を棚に戻してから扉へ向かう。

「デデさんは?」
「ん。待っていろ」

元々同じテーブルの向かい側で眼鏡を掛けて読書をしていたデデデはポポにそう返してページを捲る。

「先に失礼するよ」

レッドは扉を開きながら。

「おやすみ」
「ああ。おやすみ」
「おやすみなさいっ」
「なさーい……」


はてさて──さっきはもう先に眠っているかもしれない等と勝手に予想したがそうとも限らないのがあの三人である。パートナーだからなのか自分達のトレーナーだからなのか厭に心配性で何処に行くにもひっつきバリのように。何の気なしに彷徨おうとすれば逃がさないとばかりにくろいまなざしで。懐いてくれるのは構わないけれど自分にとっては一人の時間だって愛おしい。さっきのように。

それだって贅沢な悩みなんだろうな。いつまで経っても懐かずそっぽを向いてばかりで非協力的なポケモンだっているなんて話も聞く。それと比べたら──いや、下手に引き合いに出したらネットに晒し上げられた挙げ句炎上するかもしれない。今のご時世口を滑らせたら最後足下を掬われるまでの時間が短いんだから。

なぁんて。適当なことを考えながら歩いているとひそひそと話し声が聞こえてきた。それは不用心にもほんの数センチ閉め忘れた扉の隙間から。既に消灯されているおかげで漏れ出た明かりがよく目立つ。レッドは思わず足を止めた。

「恨みっこなしだからねっ」

ローナの声だ。

「僕、今度という今度は本気だから!」
「私だって負けるつもりないわよ」
「ネロは?」
「今調べ事してんだよ」

というか三人の声だ。

ってことはあれは自分の部屋では?

「ちょっ、見るな覗くなっ」
「不正行為だ! ふせーこーいっ!」
「やめろって馬鹿!」
「二人とも声が大きいわ」

不用心にも程がある。レッドは思わずむうっと口を結ぶと早足で扉に近付いて開け放った。

「こらっ!」
「ほにゃあぁあっ!?」
「うおぉあっ!?」

案の定ローナとネロが飛び上がった。

「起きてるのはいいけどちゃんと扉を閉めて!」
「えっ、開いてたのっ!?」

途端に他二人に睨まれるローナ。

「ローナ……」
「まぁたお前は……」
「れ、レッドはさっきの話聞いてないよね!?」

レッドは扉を閉めて振り返る。

「何の話してたの?」
「にゃんでもっ!」


怪しい。


「まさか変なこと企んで」
「あーあー消灯っ! 夜更かしはお肌の大敵!」

午前一時に何を言っているのか。

「まだ調べ事してんだよ勝手に消すなって」
「末っ子は眠いの! 配慮しろぉっ!」
「点けたり消したりしないでちょうだい。目がちかちかするじゃないの」

完全にリモコンで遊んでいる。

「いい加減にしろ!」

耐え兼ねたネロの手刀が脳天直下。

「うやぁあっいったぁーい!」

やれやれ。

「──もう寝なさいっ!」
 
 
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