無理なものは無理なので!
不意に陰る。
「フォックス!」
え?
「ぐげぇっ!?」
どたんどたんとこれまた派手な物音に蛙の潰れたような情けない声。視界を妨げるように舞い上がった埃に誰もが咳き込み困惑の表情。
「ちょ、ぶぉへっ……なに……っ」
「今フォックスの頭の上に影が見えたけど……」
程なくして埃が失せれば。
「あ!」
ドンキーが真っ先に声を上げる。
「ラディス!」
なんと、そこにいたのはラディスだったのである。先程の声は何故か彼の下敷きとなっているフォックスのものだったらしく、ぐるぐると目を回しながら可哀想に伸びてしまっていて。
「あたた……っ、あ、え!? フォックス!?」
表情を歪ませながら腰を摩っていたラディスだったが床にしては柔らかいなと何気なく視線を落とした瞬間事態に気付いて飛び退いた。はてさてどうしたことだろう彼は誰かと性的な行為を交えないと部屋から出られなかったはずだが──
「うるさい」
呆れたような口振りで。答え合わせをするかの如く遅れてゆっくりと降り立ったのは。
その直前まで双眸を黄金色に染めていた藤色の髪の少年。超能力者の──ユウ。
「そういうことですか」
リンクは合点がいったように。
「テレポートを使いましたね」
「そうだ」
「てれぽーと?」
「瞬間移動ですよ」
説明口調で人差し指を立てながら。
「あの部屋は確かに条件を満たさない限り扉が開かないという不可思議な力が働いていましたがテレポートのように空間を歪ませて擦り抜ける分にはその力が作用されなかった……ま、確かに冷静に考えてもみればワープパネルは通れるという話だったわけですしね」
成る程、と呟いて揺れる影。
「盲点だったな」
「お前本当に大丈夫か……?」
擦り傷だけだと信じたいがさながらお化け屋敷に出てくるお化け役か何かのように頭から血を滴らせるマスターにマリオは青ざめてしまっている。
「せやけどえらいタイミングやな」
「好きに言ったらいい。私はあくまで"たまたま"通りかかったから回収しただけだ」
……声が聞こえる。
「そうだぞ。ユウはすぐに助けてくれたのに」
ラディスに抱き起こされるような形で。けれどその本人は気付かぬままフォックスは瞼を重く持ち上げぼんやりと意識を取り戻す。
「そりゃユウは事情を知らないからだろ」
「……事情?」
「やぁっぱり聞いてなかったんですねぇ」
「ラディスって抜けてるよなー」
なんだ。分かってなかったのか。フォックスは何処となく安心したように瞼を改めて閉ざす。
それでも。……もし。
もし。事情を知っていたら。
「あの部屋の扉は──」
……ラディスは。どうしたんだろう……