君は死ぬより惨い夢を見たことがあるか?
振り向けば、そこに──あの人が居た。
今すぐにでも駆け付けて抱き締めたい気持ちを痛いほどに拳を強く握って爪を手のひらに食い込ませることで無理矢理に抑え込む。眉を寄せた苦悶の表情も相俟って何から何まで察したのであろうその人は丸くした目を細めて微笑を浮かべた。
「……そうだね」
奥歯を強く噛んで堪える。
「行ってらっしゃい」
そんな声が頭の奥にまで響いたかと思うと何処かでがちゃんと鍵が外れたような音がした。続け様独りでに──まるで手招くように軋んで半開きとなる後ろの扉を横目で見て、また彼に向き直る。フォックス、とユウが小さな声で呼んだ。
「……ごめん」
握り締めた拳が震える。
「連れて行けなくて……ごめんっ……!」
あの人は。
ただ、……笑っていた。
「フォックス」
ユウは現実を突き付けるように。
「あれは」
「分かってる」
言い切らせたくはなかった。
「行こう」
背中を向けて扉を開けば。眩いばかりの光が目の前に飛び込んできて。
「ラディス」
世界が真っ白になっていく中で瞼を閉じる。
「……行ってきます」