なんてったってシスター!



扉を開け放って駆け込む。青い閃光を体の至る所に走らせながら一心不乱に真っしぐら。侵入者に気付かないはずもなく紅の隻眼が即座に此方を向いた。長く視界に留められたらそれこそ二の舞に違いない──地面を蹴り出して空中で前転後次は天井を蹴り出し、床を踏んで即座に跳び上がって壁を走りそれもまた飛び出す。

「、何」

目にも留まらぬ素早い動きは恐らく彼女の姿を複数見せたことだろう──そう、これは得意の身軽さと素早さを生かした"影分身"。充分に撹乱させたところで正面から突撃するもクレイジーはすかさず視界に捉えた。姿が掻き消えたが即座に別の方向から電撃が飛んできて赤の障壁で遮断する。眉を寄せて舌打ちしたクレイジーが次に目を向けた先にまた突撃する影を捉えた。左目を紅く瞬かせて斬撃を見舞う。

「……!」

影分身じゃない──本体!?

「ゔあっ!」

斬撃を受けながらもようやく飛び付いたピチカは一緒になって床に飛び込みながらその左手を両手を使って力強く押さえ付けた。

「っ、離せよ!」

見た目の割には凄い力だ。振り解こうとするクレイジーに抵抗するようにピチカはその左腕に思い切って噛み付く。

「いっだぁ!」

その瞬間拘束が解けてダークピチューは落下。体を強く打ち付けたが思わぬ事態に咳き込みながら上体を起こして困惑に顔を顰める。

「っの、……ふざけんなッ、離せ!」

大きく腕を振るわれてピチカは思わず口を離したが直後体を弾かれる。地面に投げ出されても尚睨み付けるピチカにクレイジーは体を起こしながらいよいよもって怒りを露わにする。

「……殺してやる!」


焔のような紅が強く瞬いた。


「、!」

小さく息を吐く音。

「まさか小鼠が紛れ込んでいるものとは」

その人はゆっくりと青を擡げる。

「説明しろ」

阻むように両者の間に展開された青の防壁が──ふっと消え失せる。

「クレイジー」

マスターは静かに呼び付ける。

「おいで。痛かっただろう」
 
 
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