バウンサー
……甘い匂いがする。
「起きろ」
寄りかかっていた鉄格子を掴んで揺すられれば煩わしい音に現実に引き戻された。ゆっくりと瞼を開いたが真っ暗で何も見えないことで今の自分が囚われた上で目隠しをされているものと気付く。
「……災いの目、か」
男はにやりと口角を吊り上げる。
「この事態までは予測できなかったか?」
嫌味を吐き捨てるその男が冷たく見下すのは災いの目と称された男──ユウ・ブラン本人だった。幸いな事に傷一つ付けられていないのはどう吐き捨てたところで商品価値があるからこそなのか。
「うぅ……うっ……」
半身半魚の少女にドラゴンのハーフ。
此処は例の闇オークション会場のその舞台裏。
「思ったより安価だったな」
細身の男がぼやきながら舞台から回収してきた台車の上には長毛の犬なのか猫なのか区別の付かない黒い生き物が丸くなっていた。どうやら気性の荒さが故に麻酔で一時的に眠らせているらしい。
「準備しろ」
大柄の男がそう言ってしゃくるとユウを捕らえている鳥籠状の檻に黒い布が被せられた。その内に檻は男たちの手によって台車に乗せられたのか、タイヤの音と揺れを生じながら運ばれていく。
「──お待たせ致しました!」
程なく。
黒い布は取り払われた。
「本日の目玉商品のご紹介です!」