バウンサー
ぐいと前髪を引かれて頭を持ち上げられる。そうして男は雑に扱いながら目隠しを取り払うと澄んだ紫色の瞳が姿を現した。
「さあ、とくとご覧あれ──これこそが未来を視る厄災の目!」
おおっと歓声が上がれば紳士淑女が口々に容赦なく価格を前代未聞の額まで導いた。未来を見通すその目を自分のものだけに出来たならその程度の額幾らでも取り返すことができると見込んでの入札だろう。司会の男がドミノマスクの下でその目を三日月に歪めるのが見えた。
「他にお声は御座いませんか!」
声が次第に静まってくる。
ぶつりと。──映像が途切れた。
「……ユウ?」
エックス邸にある食堂。昼の食事時とだけあって室内は賑やかだったが向かいの席に座った相手が熱々の肉うどんを前に箸が止まっているのでは気に掛からないはずもなく。
「……ああ」
「伸びてまうで?」
ドンキーは怪訝そうにしながら自身が注文した焼き鮭定食に手を付けていく。
「……今何時だ」
「十二時十分やな」
「天気は」
「晴れとるでー」
こんな時に何を気にしてるんだか。はぐはぐと食べ進めながら淡々と答える。
「……そうか」
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