誰でもいいとは言ってない!



えっと。えっと。

自分が下になるのが初めてという話でもないのに頭が回らない。重力に従って垂れる繊細な金色の髪とか左眼の下の泣き黒子とかそれとなく情報として読み込んでも今度上手く声に出せない。軋む音とか石鹸の匂いとかエトセトラエトセトラ──何もしないでいいんだっけ。

「あ」

何かに気付いたように小さく声に出しただけだというのに怯えたように肩を跳ねて。

「なななっ、何」
「いや」

けれどラディスは気にも留めない様子で。

「電気消した方がいいかなって」


こいつガチだ。


「え、いや」
「やっぱり慣れているのかい?」
「そうじゃなくて」
「違うなら消した方がいいね」

肩を竦めて小さく笑って。

「恥ずかしいなら尚更」

その人の手が頬に触れた次の瞬間。


「びゃーッ!」


カービィの渾身の悲鳴は。

それはそれは屋敷全体を震わせる程で。


「えっ?……えっ?」
「だめだめだめだめっ駄目に決まってんだろ!」

腕を掴んで訴えかけるように。

「大体お前っ奥さんとか子供だっているのに! 特殊防衛部隊のリーダーなのに!」
「う、うん」

箍が外れたように暴走は止まらない。

「簡単に話に乗んないでよバッカじゃないの! もっと自分の体を大事にしろよ!」

無我夢中に。一心不乱に。

「お前だけの体じゃないんだってことを自覚しろよこのバカッ!」
 
 
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