誰でもいいとは言ってない!



思わぬ問題発言だった。

ここまでの話の流れからそれが何を意味しているのかなんてのは嫌でも想像がつく。仮にも妻子持ち相手に冗談だとしてもなんつーこと持ちかけていやがるんだこの貞操概念迷子の問題児は!

「ラディス!」

聞かなくていいぞとばかりに呼べば。

「……分かった」


どいつもこいつも。

体だけの関係を持つ事の何が問題なのか分からない。同意の上で互いに満たせるのならそこに赤の他人が首を突っ込むべきではないし無責任すぎない? 代わりに満たしてくれるわけでもないのに口先だけの正義気取りばっかりで──


「今日の夜は空いているかい?」


……、……え?


「俺は少し用事があるから九時以降なら」

ぽかんと見つめていれば。

「君は?」

なんて聞いてくるものだから。

「ぼ、……僕もそのくらいの時間なら……」
「じゃあ決まりだね」

打って変わって辿々しく返せばにっこりと。

「ら、ラディス?」

クレシスは顔が引き攣っている。

「正気か?」

着々と話は進んでいくのに。

「俺はいつだって大真面目だよ」

物の見事に思考は停止してしまっていて。

「あ」

助け舟にしてはあまりにも遅すぎるが兎角彼の羽織ったジャケットのポケットの中で鳴り響く着信音が話を遮ってくれた。同じく食堂に居合わせた誰もが思わぬ展開に驚愕して息を呑んで見守るこの妙な空気感からどうにか解放されたと密かに息をついたのも束の間通話に出る直前そいつはすれ違いざまに少しだけ声を潜めて。


「またあとで」


……どっ、

どうしてこうなった──!?
 
 
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