紙一重の温情
「──なんで逃がしたんだよ」
親と思しき二匹の猫に連れられて仔猫の姿が見えなくなった頃を見計らってクレイジーが訊ねた。
「ねこにもたいせつがあったから」
タブーは答える。
「そんなもん関係ないだろ。力使ってゼロにして自分のものにすればいいじゃん」
クレイジーが言えばタブーはゆっくりと顔を上げて無垢な目で見つめた。純粋な子どもの目というものはどうしてこうも刺さるのだろう──思わずたじろいで「何だよ」と返すクレイジーに。
「ちからをつかっても」
タブーは紡ぐ。
「たいせつのものなのはかわりはないよ」
どく、と。
心臓の鼓動の音を聞いた。
「マスターだってクレイジーだって」
タブーはかくんと首を傾げて言う。
「ぼくいがいのぼくはぼくじゃないでしょ?」
ああもう。本当に。
「うるさい」
クレイジーはタブーに拳骨。
「生意気なんだよっ」
「いたい」
「文句言うな!」
言わずもがな照れ隠しというやつなのだが残念ながら年端もいかない子どもである彼にはこれが伝わるようには出来ていない。むぅ、と明らか不服そうにマスターに擦り寄ってひと睨み。
「げんてん」
「今何点くらいだ?」
「きゅうじゅう」
「高いな」
「せんてんちゅう」
「どんだけ引かれてんだよ!」
物語に触れた数だけ。
非情は温情に姿を変えるのだろう。
「ふは。点数を稼がないとなクレイジー?」
「ぼくアイスがたべたい」
「はああっ!?」
猫のように気まぐれな君の温もりが。
幾年先も。
世界を育みますように。
end.
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