病めど病まれど
殺すとか。殺されるとか。
「リーダーは」
食堂を後にしたスピカが自室を目指してゆっくり通路を歩くその後ろを歩きながら。
「怖くないのですか」
ダークウルフは訊ねる。
「なんだ」
スピカは振り返らずに返した。
「今日はやけに患者が多いな」
「──ただの遊びで聞いてはいません!」
ピシャリと。
「俺は……だって、……リーダーが」
内側から這い上がってくる。
「……俺じゃないと」
忠犬のような男だった。
命令には決して背かず忠義の限りを尽くし、想い慕うその人が望むのなら陽光を顧みない。人間兵器として生み出されても尚製作陣よりもその人に付き従い信じて歩みを進めてきた。
失われるくらいなら。
やがて誰かに殺されるくらいなら。
いっそ。
「ぁ」
気付けばダークウルフは向き合ったスピカの細い首に手を掛けていた。じっと見つめる双眸に映し出される自分の表情があまりにも不安に溢れ滑稽で。どくどくと跳ね上がる心臓が嘔吐物とも言い難い何かを喉の奥のもうすぐそこまで運んできているお陰で息だってほら整わない。
「ウルフ」
スピカは静かな口調で訊ねた。
「……殺さないのか?」