ぼくのいろ




「“いめちぇん”をする」

とある何でもない日の正午を過ぎた頃だった。


「……はあ?」

亜空間、黒塗り巨大研究施設の中にある第三研究室にて。

「なに言ってんの?」

ぱたぱたと慌ただしく靴音を響かせて駆け込んでくるものだから、何事かと実験の手を止めて発言を待ってみればこれである。クレイジーは小さく溜め息。

「そめるのっ」
「……何を」
「かみ!」

――髪を染める?

そういう年頃だからと納得するには少し早過ぎやしないか。それが髪型なら未だしも、しかもこうも必死な様子で髪の色を変えるなんて目の色を変えられても。

「いいじゃないか」

マスターは試験管の中の液体を軽く揺すりながら。

「それで、何色にするんだ?」
「……これからさがす」
「どうやって染めるのさ」
「かんがえとく」

自由気ままというか、何というか。毎度毎度彼の突拍子もない言動にはいくら万能の力を受け持つ神といったところで想像もつかないし、追いつけない。

「……クレイジー」

兄さんはいつもの調子だし。

「五分経った。Bの反応を見てくれ」

髪の色くらいどうだっていいか。

「はーい」
 
 
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