神様のなにもない一日
……着替え。
「食事も用意させていただいておりますよ」
「いやに持て成すじゃないか」
マスターはベッドの縁に腰掛ける。
「ええ、勿論。申し上げた通りお二人には今日一日何もせずゆっくりと休んでいただきます」
着替え用と思しき衣服を手に進み出て。ダークフォックスが前に膝を付く様を目にさながら召使いか何かのようだと。忠実な駒という点では変わりないが燕尾服を着せてみたくなる。
「珍しいね」
覚醒はしたのだろうがそれでもいつもより落ち着いた声色でクレイジーが口を開く。
「兄さんが素直に受け入れるなんて」
「いいじゃないか」
くす、と笑って。
「部下が上司の為に尽くそうとしてくれているなどとは。滅多にないことだ」
「いや結構尽くしてるっスけどねぇ」
ダークフォックスが口を挟むや否や容赦のない拳骨が頭に飛んでくる。
「あだっ!」
「失敗した任務は尽くした内に入らない」
「何にせよ可愛いじゃないか」
クレイジーはじっとりとした目を向けて。
「……本気?」
「己の部下が可愛くない上司などいるものか。お前もそうだろう」
「別に。あまり僕以外の奴を可愛い可愛いって褒めそやすのやめてよね」
ツンとした態度にくすくすと笑う。
「今、ダシにされたような」
「鶏ガラですねえ」
「自分で言うのかよ……」