神様のなにもない一日



主君が過ぎて扉が閉まるまで顔を上げてはならない。言い付けではないにしろそういったものだと理解していた自分は静かに瞼を伏せて彼ら双子が立ち去るのを待った。

ところが。

「──マスター様。クレイジー様」

思わぬタイミングで口を開いたのは。

「僭越ながらひとつ提案を」

ダークウルフは言葉を続ける。

「──このまま。今日一日何もされずゆっくり休まれてみては如何でしょう」


……。


「はぁ?」
「あー自分も思ってたんスよね」

案の定眉を寄せるクレイジーに続けざまダークフォックスがいつもの調子で返す。

「だってあまり寝てなくないっスか?」
「確かに。マスター様に至っては目の下に隈も窺えるようですし眠そうですよね」
「あとクレイジー様、服縒れてるっスよ」

指摘されるや否やぎくりと肩を跳ねてマスターから視線を受けるより早くクレイジーはぱっと顔を背けてしまいながら衣装を正す。

「よ、余計なお世話。大体お前ら僕たちに指図できるほど偉くなったわけ?」

それを言われてしまうのでは流石の三人も口を噤んでしまう。スピカは小さく溜め息。

「はん。言い返せもしないくせに──」

煽る彼のすぐ側の壁。

「ぎッ!?」

黒の雷撃が突撃して抉る。

「気高く誇り高く。主君には常日頃から万全の状態で居てもらわなくちゃ困る」

スピカはゆっくりと息を吐き出して。

「脅したところで今だけは俺らの方が勝る」

青筋を浮かべながら。

「──分かったらとっとと部屋に戻ってまずはその睡眠不足からどうにかしろッ!」
 
 
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