大人になりたい!
「あっ」
物思いに耽っている隙に、目線の先にあった本は何者かの手によって奪い去られていた。その手を辿って正体を確かめると、赤紫の瞳と目が合って。
「……ほらよ」
ウルフだった。差し出された本を見てルーティはその手を恐る恐る伸ばしたが。ふと思い直して引っ込める。……見られてたんだ。
「別に。読みたいなら先に読んでいいよ」
あえて突き放すような台詞を吐いて、顔を背ける。ウルフは行く手を失った本を暫く見つめた後で、小さく息を吐き出した。
「何をそんなに焦ってんだ」
ぎくり。ぱっと顔を向けると同時にウルフは本を棚に戻して。
「別に焦ってなんか」
「焦ってるだろ」
「お、大人をからかわないで」
「だから餓鬼なんだ」
これは論破とでもいうべきか。言い返せず、口を閉ざす。
「頑張って背伸びしてんの見え見えなんだよ」
「……そんなの」
言い負かされるな。そう言い聞かせてルーティは拳を握った。
「ウルフには関係ないっ!」
「関係あるから言ってんだろ」
……さらりと返されてしまった。
「てめえの目は節穴か。周りをよく見ろ」
心臓が跳ねる。
悪いことをしてるようなつもりはなかった。だけど、皆の心配そうな顔が頭から離れなくて。思い返すと何故か、胸の奥がずきずきと痛む。