大人になりたい!
「っまずい」
ルーティが跪いて手で髪を愛でるように梳いた後、頬に添えるとフォックスの狐耳がぴくんと跳ねて危険を察知した。――リオンが、興奮している。
笑い事じゃない! それがどんなに危険なことかっ!
「ルーティ、離れるんだ!」
そうは叫んだがそれは少し遅すぎたようだった。頬に添えられた手の甲に指先でそっと触れ、かと思えば重ねて。頬には赤みを、口にはだらしなく笑みを残して。
うっとりとした眼差しを向ける、その夕焼けのような橙色の瞳にはハートの形をした模様が浮かんでいる。吐息を怪しく跳ねさせ、虐めてくださいとばかりにじりじりと迫るその様は、獲物に涎を垂らして忍び寄るそれと似ていて――
「ぅぎゃんッ」
そんな情けない声が聞こえたかと思うと、ルーティが何も仕掛けていないにも関わらずリオンは、まるで後ろからぐいと引かれたようにぺたんと尻を付いた後、そのまま引っ張られるように仰向けに転んで後頭部を床に強打。
ルーティは立ち上がり、膝を軽くはたいて。くす、と小さく笑み。
「遊んでいい相手ではないだろう」
「ペットのリードを引くのは飼い主の役目だよ」
かくん、とわざとらしく首を傾けて。
「それとも鎖、だったかな」
ピンチと思われたルーティを救うべく参上したユウだったが、気にかけるだけ無駄だったか。ユウの瞳は間もなく、元の紫色に戻る。
「……立て、リオン」
「っ命令ですか!」
「ハウス」
「わんっ!」
ユウはちらりとルーティに視線を向けて。
「……ふー」
安心している、のか? あいつは何を考えてこんな真似を――