大人になりたい!
「……うん」
不思議と笑みがこぼれた。
嬉しくて、でも何となく恥ずかしくて。遠慮がちに手が引っ込められるのをウルフは見逃さなかった。やはりここでも、面倒くせえなと思いながら。
手を、自然な流れで撫で下ろして後頭部へ。自分の胸へと引き寄せて――
「大人になりたいんですか」
これには思わず、それぞれが同時に飛び退いた。
――まずい、リオンだ。それも立ち聞きされていたらしい。それだけでも十分たちが悪いのにここは生憎の図書室。出入り口はひとつしかないのである。
「ふっふっふ……さあ、ルーティ殿……」
怪しい笑みを浮かべたリオンの両手は、見るからに怪しく、わきわきと。
「私が真の大人というものをその体に厳しくやらしく教え込んで」
「させるかああーっ!」
扉を蹴破って現れたのはフォックス。
リオンはぎゃふんと声を上げて。呆気なく扉の下敷きに。一方で、ルーティは舞い上がる埃に咳き込んで。ウルフはというと、……既に呆れた顔つきである。
「……ルーティを」
フォックスはぐっと拳を握って。
「大人の世界に引きずり込むのは俺だ!」
お前もかよ!
「そんなのだめええっ!」
図書室に置かれていたテーブルの下から出てきて、ピチカ。
「こっこっこの日の為にファーストキスは取っておいたんだから!」
ちらり、視線。ルーティはぎくりと肩を跳ねる。
「お、おにぃ……ぼ、僕と一緒に、大人に」
「駄目に決まってんだろおおっ!」
……ああ。
「みっ未成年がはれんちしちゃ駄目なんだぞ!」
「ファーストキスはロマン! はれんち違うもん!」
「子供にはまだ早いってことだよ、バカ!」
大人の世界とは。斯くも面倒、且つ広いようで。
「ウルフ」
ルーティは苦笑いを浮かべて呟いた。
「やっぱり僕、まだ大人にならなくていいや」
「……そうしろ」
end.
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