ひだまり
静かに後ろから忍び寄って、抱き締めながら引きずり込む。
睡魔というやつはどうにも性格が悪い。魔、と付くからには害悪を与える生き物なんだろうけどこいつに至っては姿が見えないので反撃もできないし、その特殊な体質を盾に調子付いているのか定期的にやって来る。茶菓子を用意してやる気にもなれない馴れ馴れしさ。……そもそも、生き物なのだろうか。
うとうとと。ふらふらと。
記憶頼りに辿り着いた部屋は普段睡眠をとっている自室ではなかった。けれどタブーは引き返すこともなく加えて扉は半開きのまま睡魔に背を押されるがまま、中央奥のベッドに向かってゆっくりと覚束ない足を進める。
「……?」
それまではその人も静かに寝息を立てて眠っていたのだ。
仔猫が布団の中に潜り込んでくるまでは。
「ぅ」
肩を竦めて冷たい空気の侵入に身震いする。
「なに……」
瞼を重く開いて赤い瞳を覗かせた、その人はクレイジー。
「どうした……」
続けてまだ眠たそうな声で聞いたのは兄のマスター。
「……眠れないのか?」