悪の美徳



「現在、ターゲットはこの廃工場の奥に潜んでいます」

無線機からダークウルフの声が聞こえる。

「守りはそれほど固くないようですが、気をつけて。俺はターゲットが移動してしまわないよう、ここから見張りを続けます」

了解、とスピカが返すと無線は切れた。改めてその廃工場の扉を見つめる。

「わざわざ見張りなんかさせなくてもあの狼にやらせりゃ」
「――それじゃ駄目なんだよ」

振り返らないままに。そっとその手で扉に触れる。

「こういう連中は爪痕を残さなきゃ分からない。自分のやってる罪の程度が」


だから、知らしめる。――それが俺の正義。


スピカは右脚に黒い稲妻を纏わせると、扉に回し蹴りを食らわせた。固く閉ざされ、錠も掛けられ重量もあったであろうその両開きの扉は勢いよく開かれて。

直ぐ様、鉄パイプや拳銃といった武器を手に男たちが駆けつけてきた。すかさず剣を抜くダークマルスとダークロイ。一応、怪我は負わせても致命傷程度に済ませろとは伝えておいたが、果たしてそう上手くいくだろうか。

ダークロイは緊張からか腰が少し引けてるし、ダークマルスは柄を握る手に震えが見られる。自制を利かせろとは彼らにとって少し酷だったかもしれない。

「腰を抜かしても助けてらんねーからな」
「ご心配なく……」

大きな音を立てて閉ざされる扉。クレシスはふっと笑みをこぼして。

「自分の身くらい守れるさ。こんだけ小さけりゃあな」

振り返ると、回り込みを仕掛けていた男を既にクレシスが蹴り飛ばしていた。

さすが、鬼教官ともあれば優しくするはずもないか。そうなれば心配の方はしなくてよさそうだ。スピカはぱちんと指を鳴らして、黒い稲妻を放つ。

「――遅れんなよ!」
 
 
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