悪の美徳
とはいえ、……まいったな。
男を捕らえてくれとまでは確かに書かれているのだが、その後の対応は此方に任せるつもりらしい。頼むだけ頼んで、後は一切関わらないつもりのようだ。
ま、大手の企業を抱えていれば当然の判断か。
「さっさと片す。すぐに出るぞ」
「……承知しました」
スピカが紙を手放すと同時に黒い閃光が走り、紙は瞬く間に真っ黒に焼けてはらはらと散っていった。一方でダークウルフは左胸に手を置いて頭を下げると、自らの影に溶け込むようにして消えてしまい。
「二人だけでやるのか?」
「ま、目的は敵の殲滅じゃなくてターゲットの捕獲だしな」
それを聞くとクレシスはふぅん、と声を洩らした。スピカが背中を向けたが刹那。
「じゃあお前とお前、任務に出ろ」
ああもうこの人は!
「え、あ……僕、ですか……?」
「っ父さん! いいって言ってるだろ!」
クレシスが何気なく指名したのはよりによってダークマルスとダークロイの二人だった。ダークウルフなら自制が利くからいいのだが、特にダークマルスは形振り構わず剣を振るう。詰まる所、犠牲が出ないはずがないのだ。
「まさか。父親より長く過ごしていながら、躾を怠っていたと?」
図星。というよりは自制が利きにくいだけなのだが。
「あまりこの目を汚してくれるなよ。ダークシャドウのリーダーさんよ」
こんの悪魔がぁぁぁ!