悪の美徳
クレシスはにっこり。
「構わないだろ?」
「いやいやいや!」
思わずスピカも立ち上がる。
「俺たちが受けてる依頼は父さんが思ってるほど可愛いもんじゃないんだって!」
下手したら血飛沫散々、相手の臓器だけじゃない自分の首だってぶっ飛ぶかもしれないのに! まあ今までそんな経験もないしそこまでは口にしないが。
「いいじゃねえか。単なる好奇心、保護者同伴もたまには悪くないだろ?」
悪すぎるよ!
「リーダー」
そこへダークファルコがやって来て、こっそり。
「ここは素直にお父様をお連れしてはいかがでしょうか」
「要するに仕事が出来りゃいいんだろぉ? これに懲りたら二度目はないって」
挟むようにしてダークフォックスも耳打ち。
――確かにそうだ。嫌だやめろと拒んだところで、はいそうですかと素直に帰るような男じゃない。先程例えたような光景を一度目にすればもう二度とこのような考えには至らないだろう。極力見せたくはないが、いざとなったら覚悟を決めて。
「……ウルフ。今朝受け取った依頼があったろ」
「あ、はい」
スピカが後ろ手を向けるとダークウルフがすかさず一枚の紙を胸ポケットから取り出し、手渡した。スピカは紙を広げ、その内容に簡単に目を通す。
依頼主は大手の有名和菓子メーカーのご令嬢。どうやら、その会社に務める課長の男が事もあろうにお金を横領しては気に入った女に貢いでいたらしい。
秘書の女がそのことを暴いた途端、逃走。何処に逃げ込んだかまでは明らかなのだが、何しろその男、少しばかり厄介な組織に足を突っ込んでいる。下っ端でありながら胡麻擂りは念入りだったようで、庇われ、迂闊に手が出せないようなのだ。
何か問題を起こせば世間は喜んで取り上げるだろう。こんなことで汚名を着せられたくはない……だからこそ自分たちに依頼を頼んだのだろう。