悪の美徳
――どくん、と心臓が跳ねる。
「父親の身にもなってみろ。お前は単に生かされ、惑わされているだけかもしれない。そいつらの優しい声や笑顔に。これでも心配してんだよ、こっちは」
スピカは一瞬言葉を失ってしまった。
「……そんなこと」
「お言葉ですが、お父様」
口を挟んだのは先程まで狼狽えていたダークウルフである。
「我々ダークシャドウはリーダーに嘘を向けたことはありません。心から尊敬し、そして……愛しているのです。元々、戦闘の術しか知らなかった兵器も同然の俺たちに様々な知識を与えてくださったのはリーダー。即ち、彼こそが全て」
ダークウルフは己の胸に手を置いて続ける。
「俺たちが嘘をつくということは同時に」
「息子を否定することになる」
にやりと笑って、クレシス。
「それだけは絶対に許さないってか。随分と口真似が上手だな」
――ああもう。これじゃどっちが悪だか分かりゃしない。
「父さん」
「……少しからかっただけだ。そう目くじら立てることもないだろうが」
「え、あ、これはそのっ」
慌てふためくダークウルフは差し置いて。
「何しに来たんだよ。うちの連中に喧嘩を売るのは冗談でもやめてくれ」
「多勢に無勢というだろ。そんな馬鹿な真似はしない」
コーヒーをひと口、それから飲み干してカップは小皿へ。
「……父親としてお前の仕事ぶりを見学させてもらおうと思ってな」