悪の美徳



あいつって……

「ちなみに本物のターゲットはそこのロッカーの中だ」

クレシスがそう言ったタイミングで部屋の角にぽつんと置かれていたロッカーから不審な物音がしたかと思うと、今度こそ本物のターゲットの男が出てきて床に倒れ込んだ。両手両足もしっかり拘束されてしまっている。

「せいぜい大切にしてやれよ。お前の家族を、な」

クレシスは扉を開いて。

「……機会があったら依頼してやる。その時が楽しみだ」

待って、と留める間もなく。クレシスは部屋を出ていってしまった。

一応外の世界だからメヌエルに帰るのは苦じゃないだろう。それでも、事情さえ知っていれば送り届けたかったのだが。……親孝行、か。

したことないな。


……せっかくの機会だったんだけどな。


「リーダー、あの」

ダークウルフは気まずそうに視線を落とした。

「なあ」

スピカは扉を見つめ、口を開く。

「お前らには俺がどう映って見える?」

ダークマルスとダークロイは顔を見合わせて。ダークファルコは腕を組んでいたが、ただ一人、ダークウルフだけはぱっと視線を上げて、こう笑いかけた。

「ちょっぴり意地悪な、俺たちの正義(ヒーロー)ですっ」


正義と悪は紙一重。正義の悪徳が悪の美徳。


「……引き上げるぞ」
「あ、この人どうしましょうか」
「八つ裂きにして見せしめにしなぁい?」
「警察署前で晒し首……」
「却下」
 
 
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