それは甘くてあざとくて



「くそっ、嫌な予感がして来てみれば」
「スピカくん?」

がし、と少女は後ろからスピカの肩を捕まえて。ひっ、スピカの口から小さく悲鳴が洩れる。体はすっかり硬直してぎこちなく、顔を引き攣らせ振り返ると。

「これはどういうことかなぁ……?」


にっこり。


「……あっビクティニ」
「え、どこどこ」

今だとばかりにルーティを突き飛ばして食堂を飛び出すスピカ。

「っこらー!」

あんな単純な罠に引っかかるなんて。逃げるということは少なくとも事情は知っているということ。ああもう、いちいち推理してられるか! とっ捕まえてやる!

追いかけて飛び出すルーティを見つめ、ファルコは疑問符。

「……何なんだ?」
「ルーティもそういうお年頃なのね……!」


廊下。それはもう全速力で。必死に駆けながらルーティは叫んだ。

「なんで逃げるのさぁ!」
「知るかっ、てめえが追ってくるからだろ!」

負けじとスピカも叫ぶ。

「大体っ、なんでルーだけ自分が女にされたって分かるんだよ!」
「それもこれも分からないからっ」

次にスピカが距離を確認しようと振り返ると、ぎょっとした。驚くことにルーティはすぐそこまで迫ってきていて、静止させる間もなく飛びかかったのだ。

「聞いてるんでしょーがぁ!」
「ちょ、」


――どたんっ、と派手な音が廊下に響き渡る。


「……さあ」

ルーティはじっとスピカを見下ろしながら。

「ちゃんと説明してもらうからね。――スピカ!」
 
 
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