それは甘くてあざとくて
うわ、こうして見るとピチカってモテモテだったんだなぁ。
ピチカはぱっとルーティから離れると、それぞれ可愛らしく包装されたチョコレートを見つめた。彼女――ああいや、彼のことだ。まさかこれが自分に向けられた、かの本命チョコだとは早々思うまい。そう思って眺めていると。
「わぁ……これ、僕に?」
ピチカはチョコレートを受け取り、微かに頬を染めながら笑った。
「あはっ、嬉しいな。ありがとう」
嬉しげに肩を竦めるその姿の愛らしいこと。きらきらとしたエフェクトが目に見えるようだ……この反応にはディディーもトゥーンも大喜びで、互いに頬を染めて笑いながら顔を見合わせていた。が、これで終わりではない。
「……でも、なんで手作りなの?」
ピチカはにこりと笑って二人に詰め寄る。
「ね、なんで?」
「そっそれは」
あんたが言ってよ、とディディーを肘で小突いてトゥーン。頭では分かっていても、こうも急に言われたのではすぐに返せない。それを知ってか知らずかピチカは口元に笑みを残したまま、目を細めて囁いた。
「いいの?……期待しちゃうよ?」
あざとい。
「えっ、あ」
好きな人にそんなこと言われちゃあ、誰だってそうなるか。――バレンタイン独特の甘ったるい空気が食堂に充満している。ああ、もう誰か換気をしてくれ。
いや、それよりも早く元の性別に、
「くぉらああぁあ!」
仕事が早いよ!
勢いよく開かれた食堂の扉。現れたのはスピカである。
「俺のいもう……じゃなかった、弟にチョコ渡してんじゃねえ!」
「う、っ、兄ちゃんには関係ないだろ!」
「お兄ちゃんと呼びなさい!」
色々と突っ込み所が満載だ。
「……ん?」
ちょっと待った。今、この人……妹って、言いかけたよね。