それは甘くてあざとくて
飛びかかってきた少年をルーティはさっと躱して。
「あがっ!?」
壁に激突。ずるずると床に落ちて暫く動かなかったが、むくりと起き上がると「なんで避けるんだよ!」と声を上げた。間違いない。彼はかの少女、ピチカ。
これでようやく理解した。何らかの作用でX部隊のメンバーの性別が反転してしまっているのだ。それにしても一体誰がこんな……くっだらない真似を。
「聞いてんのっ!」
「へっ!?」
じっと見つめるピチカにルーティはあたふた。
「あ……ええと、バレンタインの話……だったかな?」
それどころじゃないのに。すると、ピチカはにやーと表情を変化させて。
「そっ。僕、ねーねからの手作り本命チョコが欲しいなあ……?」
何かねだり始めたー!?
「ああっ、ルーティ!」
「相変わらず好かれてんなあ。ちゃんと応えてやれー」
ばっと手を伸ばすフォックスを留めながらファルコはにやにや。そういえば、ピチカって甘え上手なんだよね。ああ、男の子になると天使に扮した悪魔だな。
「チョコじゃなくて、ねーねでもいいんだよ? ほら、僕ってもう十四だし」
「そういったセクハラ行為はお断りしております」
思考が若干変態寄りで辛い。ルーティはぐぐ、と詰め寄るピチカの肩に手を置いて抵抗。本当、見た目だけはふにふにと柔らかそうな天使系男子なのに……
「ピチカっ!」
と、ここでようやく助け船。
「あ、のさ……今日ってバレンタイン、だから」
「味は……その、保証しないけどっ」
ディディーとトゥーンは揃ってチョコレートを差し出す。
「受け取ってください!」