それは甘くてあざとくて
――バレンタイン当日。
「……っんー」
エックス邸の朝。ルーティはのっそりと体を起こしてからもまだ眠たそうに瞼を擦っていた。部屋の時計を見てみれば、もう九時である。……起きなきゃ。
まだまだ眠気が抜け切らない。気怠そうな仕草を煙草を吹かせながら突っ込む狼もいないので、ルーティはのろのろとクローゼットへ。掛けてあった自分の服を欠伸混じりに手に取り、そのまま部屋の扉近くに立てかけてある等身大の鏡の前へ。
寝巻きのボタンを上から順にぷちぷちと外していく。そして、気付いた。
「……あれ」
次第にはっきりとしていく、思考。
「えっ」
――僕、男だよね?
「っきゃー!?」
廊下を歩いていたウルフは思わず立ち止まった。
ばたん、と勢いよく開く扉。飛び出してきたのは寝巻きのボタン全開のあられもない姿のルーティ。慌てふためく“彼女”をウルフは呆れたように見つめる。
「なぁにやってんだ、朝から」
そう呟くと、気付いたルーティが駆け寄ってきた。
「大変なんだウルフ!」
「……、何が」
「女になってる!」