それは甘くてあざとくて
「バレンタインを撲滅しろ!」
扉を開けた途端、これだ。
「……え」
「今すぐに!」
「ちょ、ちょいタンマ。落ち着いて」
ここは亜空間にあるダークシャドウの基地。皆が寝静まった夜更け、しつこく扉を叩く音が五月蝿くて趣味の実験を中断、渋々とダークルイージが出てみれば。
「バレンタイン反対!」
「いやどうしたんだよリーダー」
仕事上がりのスピカが何やらご立腹である。
「……お前、バレンタインがどういう行事か知ってるか」
「血祭り」
「いやちげえだろ」
口を挟んだのは彼の実験に付き合っていたらしいダークマリオ。
「あれだろ。餓鬼がチョコレート菓子作って好きな奴に送り付けるっつーあの」
「ああぁあ! それ以上言うなああっ!」
どっちだよ!
「リーダーどうした。妹さんのことか」
的中。ダークマリオがそう言うとスピカの背景に稲妻が走った。
「っ……そうだよ」
スピカはがくんとその場に両手両膝を付いて。
「ピチカだって……そういう年頃だし。バレンタインっていったら、義理に紛れて本命チョコなんか作ったりして……渡す相手だって、いるかもしんねえ!」
刹那、ばっと立ち上がってダークルイージの手を取る。
「俺の性格、分かるだろ! 妹のチョコ、誰にも渡したくねーんだよ!」
とはいえ、バレンタインは明日。
「……わぁーったよ」
ダークルイージははあ、と溜め息をついて。
「そんかし。苦情は受け付けませんので」
「おう! 全てをお前に託すっ!」
――知る由もなかった。
これがとんでもない事態を招く引き金になろうとは……
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