兄の心配
自分も妹と離ればなれになったことはあるが、たったの一年。
……それでも、あの時は長かった。それぞれがトレーナーから杜撰な扱いを受け、身も心もぼろぼろの中、大好きだった兄弟がそこにはいなくて。
何でもするから独りにしないで、と深い眠りの中でうなされていた妹たちの姿を覚えている。自分も、そうだったかもしれない。……だから、本当は。
女の子らしくなってほしい、なんてのは建前で。
「おい」
スピカに声をかけられるとネロはようやく我に返った。
「何、ぼーっとしてんだよ」
……そうだ。こうしちゃいられない、自分達はローナとピチカを追っていたのである。自分の痛ましい過去に浸っている余裕なんてないのだ。
「行くぞ」
「お、おう」
さっきまでうわの空だったかと思えば、急に何事もなかったかのように動きだすのだからスピカは少し目を丸くした。それでも、まあいいかと思い直して。
「お兄さんって大変だねぇ」
二人が食堂を後にすると、入れ替わるようにカービィがやって来た。
「その通り!」
と、声を上げたのはマリオ。
「兄とは、ありとあらゆる壁を乗り越えなければならない。川、山、谷……時として波打つ溶岩が行く手を阻もうと、その足で飛び越えなければならんのだ!」
「それ兄さんだけだよ」
熱弁に対し、ルイージは小さく溜め息。
「本当に大好きなんだねぇ、一方通行だけど」
「そうでしょうか」
リンクはくすっと笑う。
「僕もそう思うよ」
「なぁに緑だけで分かち合ってんのさ」
カービィはつまらなそうに唇を尖らせて。
「……兄弟って、いいですねぇ」