兄の心配
そう言うと、スピカは黙り込んだ。
ネロは少し目を丸くした。……自分だって、言い過ぎたつもりはなかったのだ。
この発言だって自分がそうだと今まで認めてきたもので、それを間違いだなんて思ったことはない。暫く見つめていると、スピカはふいと顔を逸らした。
「……たった七年間、一緒に居ただけなんだ」
ぽつりと口を開く。
「子供の頃の記憶なんて曖昧で、それこそ玩具みたいなもので……その内すとんと抜け落ちてしまうかもしれないくらい危なっかしくて。……それなのに」
ネロは黙って耳を傾ける。
「それなのにあいつは、十年経って再会した俺のことを“大好きなお兄ちゃん”だって言ってくれたんだ。ひょっとしたら忘れていたかもしれないのに」
ちゃんと、仕舞っておいてくれたんだ。心の奥で、たった一人の兄の温もりを――
「馬鹿になって何が悪りぃんだよ」
「悪くないですね」
「うぉわっ!?」
いつの間にかそこにリンクがいたのだから驚きである。
「お、脅かすなっ!」
「兄妹愛に感涙してるんじゃあないですか。ああ、めそめそ……」
「馬鹿にしてるだろ? 馬鹿にしてるだろ!?」
ネロの後ろから威嚇するスピカに、リンクはくすっと小さく笑み。
「……納得できましたか?」
それはネロに投げかけられた問いのようだった。
「そりゃ、十年も離れてりゃそうなるだろうよ」
「離れてなくたって俺のピチカは誰にも渡さねえ!」
ギャーギャーと騒ぐスピカに対し、ネロは少し口を閉ざして。
「……?」
――十年、か。