兄の心配
「……恋などとは人間の娯楽だ。戯れ事に興味はない」
ガノンドロフがそう返すと、ローナとピチカは顔を見合わせた。そりゃそうだ。
「参ったね。クールガイときたもんだ」
「そうかなぁ……、ねーねー。リンクのことは好きじゃないの?」
ピチカが訊ねると、まるで興味がないといった具合にガノンドロフはふんと鼻を鳴らした。これ以上会話を続けるのは難しそうだし、ここはおとなしく。
「てれーん! 次のターゲットはリンクに決まりました!」
ローナが言うと、ガノンドロフの眉がぴくっと動いた。
「ふえ? なんで?」
「家庭的で誠実な男性は、女子の身も心も包み込む……そんな気がするのだよ」
そっかあ、とピチカも納得。そうと決まれば食堂に直行――かと思いきや、ガノンドロフが二人の首後ろの襟を掴んで止めた。ぐえ、と声を洩らして。
「何すんのさあっ!」
「バイオレンスは幸せな家庭を築けないんだぞう!」
「やめておけ」
そう放たれた言葉に、二人は目を丸くする。
「つまらん男だ。後悔するぞ」
「ま、魔王様からのアドバイス承りました!」
「うーん。じゃあ庭の方に行ってみない?」
屋敷の庭には現在、リンクを除いた剣士組がいる。やっぱり強い人が一番だよ、というピチカの提案にローナは頷いた。……というわけで。
「いざ!」
「また走るのっ!?」
忙しい妹たちだ。今日はずっとこの調子で走るのだろうか。
「なんで止めたんだよ」
あっ。
「……貴様には関係のないこと」
物陰から出てきたスピカの質問にそう返して、ガノンドロフは歩きだした。あの方向から察するに、彼はこれから食堂へ向かうのだろう。
「……あいつ」
もしかして――
「ピチカを他の奴に取られるのが嫌で誤魔化したな」
「もういいから帰れ」